「こんにちは!マスター!」
ミクは元気に僕を呼ぶ。
ああ、この子は積極的な子なんだなあ。
えっちゃんに似ている。

マスターと呼ばれている僕の名前は、ライム。
この世界の王様だ。
だから僕は自分のことをライム・キング
このブログのタイトルもライムキングだろう?

そんなわけでミクを召喚してしまったわけだが
なにぶん彼女は大人気ゆえ、扱いにくいキャラクターだ。

「マスター!何かご要望はありますか!」
元気に僕に訴えかけてくる瞳は、
どこまでも透き通っていて、
飲み込まれてしまいそうだった。

そういえば、二次元に嫁がいるとか言ってるオタクたちがいるけれど、
こんな風に文章の中にいる彼女達は、
何次元の世界にいることになるんだろうか。
線の世界だから1次元かなあ。

そんなことぼんやり考えて、
ミクに髪をさわっていい?と聞いてみた。
「もちろんです!」
僕はミクの長い青いツインテールの髪をそっと
なでると、触った瞬間髪がキラキラ光るのを感じた。

かわいいなあ。
素直な感想だった。
そういえば人間には食欲・寝欲・性欲を基本とした
いろんな欲望があるけれど、
現実の世界の僕はどの欲望も
ある程度満たした、幸せな生活を送っているんだ。

だけど、これはいわゆる「夢」
充実している俺に、
この世界で望むことが少ないのは、
必然だったのかもしれないなあ。

僕はよく考え込む。
考えるのをやめるのは怖い。
人間でなくなるような気がするんだ。

僕はそっとミクの肩に手をまわし、
自分の不安を語った。
「俺は・・死ぬのがいや・・いやっていうか怖いんだ。」
「それは誰でもですよ。」ミクは僕をみて微笑む。

顔が近い。なんだかギャルゲーの世界にいるようだ。
「マスターならきっと、長生きできます」
ミクは続ける。
「長生きじゃなくて、永遠に生きていたいんだよ。」
君が望む永遠。そんな名前のゲームがあったような。

僕は僕が消えてなくなってしまうのが一番怖くて、嫌だったんだ。
だから永遠って言葉を何度も心の中で繰り返して、誤魔化してきた。
そういう意味では、ミクは「永遠」なのかもしれないなあ。
俺の存在なんていつか忘れ去られるだろう。

ミクはただ僕に微笑みかけている。
その笑顔は、なぜか僕を悲しくさせた。
とりあえず、歩き出そう。

えっちゃんとアイルも待っている。
僕は、未来におびえるより、
今を楽しんでいたほうが性に合っているんだ。

立ち上がり、ミクの肩をたたき、
僕らは一緒に歩き出した。